かたちを作っていく
小樽の海が見える倉庫跡地。
ここが「灯」の新しい場所になることは、まだ誰にも言えない。
大和は図面を広げたまま、
昼の光の入り方を確かめるように窓辺に立った。
(昼は喫茶……少しレトロで、でも今の空気も入れたい)
木の質感は昭和の喫茶店のように温かく。
でも椅子や照明は、線の細い令和のデザインに寄せる。
古さと新しさの境目を、
そっと撫でるように混ぜ合わせていく。
テラス席は海風が抜ける位置に。
昼はコーヒーの香りが似合う。
夜は静かな風の音だけが聞こえる。
(夜は照明を落として……)
大和は天井を見上げた。
星を映すための小さなプロジェクターの位置を、
何度も何度も調整している。
プラネタリウム風の演出は、
毎晩ではなく、
週に一度だけの完全予約制の夜に使うつもりだ。
22時から23時の一時間だけ。
静かに、誰かの背中を押すための時間。
(言葉を伝える背中を押す一杯……)
自分で決めたコンセプトなのに、
その言葉が胸の奥で少しだけ熱を帯びる。
東京の「灯」は、
言葉の代わりに出す一杯だった。
でも今は違う。
言葉を飲み込んでしまう誰かが、
一歩だけ前に進めるように。
(……俺が変わったんだろうな)
そう思うと、
少しだけ照れくさくなる。
図面の端に置いたスマホが目に入る。
DMは止まったまま。
でも、
葵の「嬉しかったと思います」という言葉が、
ふとした瞬間に蘇る。
(……仕事に戻らないとな)
大和は深く息を吸い、
照明の角度をまたひとつ変えた。
その灯りが、
誰かの言葉をそっと照らすように。




