北海道の夜に届く文字
北海道の夜は東京よりずっと静かだ。
冷たい空気が頬を刺す。
吐いた息が白く広がる。
(……寒いな)
大和は
ポケットの中のスマホを指先で探った。
今日は忙しかった。
考える暇もなかった。
でも、ふとした瞬間に思い出す。
昨日送ったDM。
及川さんののこと。
(……返ってこないよな)
期待しない癖は、
18年の間にすっかり身についていた。
スマホを取り出す。
画面は暗いまま。
(まあ、そうだよな)
そう思ってポケットに戻そうとした、その瞬間。
小さな振動。
画面が光る。
“新しいメッセージがあります”
大和の心臓が、
一瞬だけ止まったように感じた。
(……まさか)
手が、ほんの少し震える。
DMを開く。
見慣れた名前がそこにあった。
及川葵
胸の奥が、
じわっと熱くなる。
(……返ってきた)
たったそれだけのことなのに、
胸の奥が静かに波立つ。
大和は深呼吸をして、
そっとメッセージを開いた。
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「グラスホッパーは前から気になっていて、
あの日はちょっと勇気を出して頼みました。
ミントの香りがして、甘くて、でも軽くて、
飲んだ瞬間に気持ちがふっと楽になりました。
味はすごく好きでした。
また飲みたいなって思いました。
店長は、グラスホッパー飲まれたことありますか?」
---
読み終えた瞬間、
胸の奥がじんわり温かくなる。
(……ちゃんと返してくれたんだな)
“また飲みたい”
“勇気を出して”
そして最後の一行。
“店長は、グラスホッパー飲まれたことありますか?”
それは、
会話を続けたいという、
小さな、でも確かなサイン。
(……質問、してくれてる)
大和は気づく。
葵が、自分の返事を待っているということに。
胸の奥が、
静かに、でも確かに熱くなる。
(……どう返そうか)
甘い酒は苦手だ。
グラスホッパーなんて、
一生頼まないと思っていた。
でも、
葵が“好き”と言うなら──
少しだけ、気になる。
大和は指を動かし始めた。
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「飲んだことないよ。
あれ、甘いだろ。
俺が飲んだら倒れるかもしれない。
でも、及川さんがオススメするなら……
飲んでみようかな。
……いや、やっぱり無理かも。」
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送信ボタンの上で、
指が一瞬止まる。
(……変じゃないよな)
ほんの少しだけ、
胸が熱くなる。
大和はそっと押した。
画面が“送信済み”に変わる。
冷たい夜風の中で、
彼の心だけがゆっくりと温度を上げていった。




