一呼吸おいて
昼休みに書いた下書きは、
気持ちが溢れすぎて、
結局まとまらないまま時間が来てしまった。
(……続きは、帰ってからにしよう)
そう思いながらも、
午後の仕事中ずっと、
胸の奥がざわざわしていた。
大和からのDM。
自分が書いた長文の下書き。
“幸せ”
“あの日のこと”
“遠いです”
全部、頭の中でぐるぐる回る。
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夜。
部屋の灯りを落とし、
ベッドに腰を下ろす。
昼間のざわめきとは違う、
静かな空気。
(……今なら、落ち着いて読めるかも)
葵はスマホを開き、
昼に書いた下書きを表示した。
画面いっぱいに広がる長文。
スクロールしても終わらない。
(……やっぱり長い)
でも、
読み返すと胸がきゅっとなる。
“幸せ”
“あの日のこと”
“遠いです”
どれも、
本当は言いたいこと。
(……でも、送れないよね)
葵はひとつずつ指を置き、
削除していく。
“幸せ”を消すとき、
胸がちくっとした。
“あの日のこと”を消すとき、
息が少し詰まった。
“遠いです”を消すとき、
指が一瞬止まった。
(……ほんとは、言いたいのに)
でも、
言ったら距離が縮まりすぎる。
怖い。
期待してしまう。
葵はそっと削除した。
画面がすっきりしていくほど、
胸の奥が少しずつ空っぽになっていく。
(……でも、これが今の私にできる精一杯)
残った文章を読み返す。
「グラスホッパーは前から気になっていて、
あの日はちょっと勇気を出して頼みました。
ミントの香りがして、甘くて、でも軽くて、
飲んだ瞬間に気持ちがふっと楽になりました。
味はすごく好きでした。
また飲みたいなって思いました。
店長は、グラスホッパー飲まれたことありますか?」
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(……うん。
これなら、変じゃない……よね)
“味の感想だけ”に見える。
でも最後の一行だけ、
ほんの少しだけ、
会話を続けたい気持ちがにじむ。
(……これなら、返事くれるかな)
胸の奥がじんわり温かくなる。
(……明日、送ろう)
葵はスマホを胸に抱え、
そっと目を閉じた。




