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20年間忘れられなかった人と、もう一度恋をする  作者: 柚原 澄香


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一呼吸おいて

昼休みに書いた下書きは、

気持ちが溢れすぎて、

結局まとまらないまま時間が来てしまった。


(……続きは、帰ってからにしよう)


そう思いながらも、

午後の仕事中ずっと、

胸の奥がざわざわしていた。


大和からのDM。

自分が書いた長文の下書き。

“幸せ”

“あの日のこと”

“遠いです”


全部、頭の中でぐるぐる回る。


---


夜。

部屋の灯りを落とし、

ベッドに腰を下ろす。


昼間のざわめきとは違う、

静かな空気。


(……今なら、落ち着いて読めるかも)


葵はスマホを開き、

昼に書いた下書きを表示した。


画面いっぱいに広がる長文。

スクロールしても終わらない。


(……やっぱり長い)


でも、

読み返すと胸がきゅっとなる。


“幸せ”

“あの日のこと”

“遠いです”


どれも、

本当は言いたいこと。


(……でも、送れないよね)


葵はひとつずつ指を置き、

削除していく。


“幸せ”を消すとき、

胸がちくっとした。


“あの日のこと”を消すとき、

息が少し詰まった。


“遠いです”を消すとき、

指が一瞬止まった。


(……ほんとは、言いたいのに)


でも、

言ったら距離が縮まりすぎる。

怖い。

期待してしまう。


葵はそっと削除した。


画面がすっきりしていくほど、

胸の奥が少しずつ空っぽになっていく。


(……でも、これが今の私にできる精一杯)


残った文章を読み返す。


「グラスホッパーは前から気になっていて、

 あの日はちょっと勇気を出して頼みました。

 ミントの香りがして、甘くて、でも軽くて、

 飲んだ瞬間に気持ちがふっと楽になりました。

 味はすごく好きでした。

 また飲みたいなって思いました。

 店長は、グラスホッパー飲まれたことありますか?」


---


(……うん。

 これなら、変じゃない……よね)


“味の感想だけ”に見える。

でも最後の一行だけ、

ほんの少しだけ、

会話を続けたい気持ちがにじむ。


(……これなら、返事くれるかな)


胸の奥がじんわり温かくなる。


(……明日、送ろう)


葵はスマホを胸に抱え、

そっと目を閉じた。


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