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20年間忘れられなかった人と、もう一度恋をする  作者: 柚原 澄香


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大和が動き始める

昼過ぎの北海道。

まだ什器も入っていない、

コンクリートの匂いが残る店内。


図面を広げたテーブルの上に、

大和のスマホが伏せて置かれている。


業者との打ち合わせが終わり、

ふと一息ついた瞬間──

無意識にスマホを手に取っていた。


(……また見てるな、俺)


自分に苦笑しながら、

葵のアカウントを開く。


ギムレットの投稿。

編集された文章。

そして、あのタグ。


#言葉の代わりに出す一杯


胸の奥が、また静かに疼く。


(……既婚者なら、こんな投稿しないよな)


昔、虹の投稿で見た指輪。

あれは確かに左手だった。


でも──

灯-tokyo-で再会した夜、

葵の左手には何もなかった。


(……見間違いじゃないはずだ)


期待しちゃいけない。

勘違いしちゃいけない。

そう思って、

その違和感を押し込めた。


でも、

ギムレットの投稿がその蓋を外してしまった。


(……期待していいんじゃないか)


図面の上に置いたスマホを見つめながら、

胸の奥で静かに形になり始める。


ふと、

葵が飲んでいたグラスホッパーの写真が頭に浮かぶ。


ミントの香り。

甘さ。

軽やかさ。

そして──

“幸せ”というカクテル言葉。


(……味、どうだったんだろう)


気づけば、

DMの画面を開いていた。


指が止まる。

何を書けばいいのか分からない。

踏み込みすぎてもいけない。

距離を戻すのも違う。


(……自然で、

 でも、ちゃんと伝わる言葉)


何度か打っては消し、

言葉を整えていく。


最初に浮かんだ敬語は消した。

馴れ馴れしい文も消した。

残ったのは、

自身の“揺れ”が滲む短い文章。


---


> この前、グラスホッパー飲んでたよね。

> 俺は対応できなかったけど、

> ちょっと気になってた。

> 味、どうだった?


---


送信ボタンの上で指が止まる。


(……これでいい)


不自然じゃない。

でも、

“あなたを見ていた”という気持ちは伝わる。


そして何より──

返事がほしい。

会話が続いてほしい。


そんな願いが、

最後の一行に静かに滲んでいた。


大和は息を吸い、

そっと送信ボタンを押した。


コンクリートの冷たい空気の中で、

スマホの画面だけが温かく光っていた。

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