我に返った葵
翌朝。
少し寝不足のまま、
いつもの時間に家を出た。
電車はそこそこ空いていて、
吊り広告の下に立ちながら、
ぼんやりとスマホを開く。
通知がひとつ。
昨夜の投稿に、
いくつか“いいね”がついていた。
(……あ、そういえば編集したんだった)
軽い気持ちで、
自分の投稿を開く。
「知らないで投稿したけど、
意味を知って少し驚いた。」
(…………)
一拍置いて、
脳内に昨夜の自分がフラッシュバックする。
ギムレットの意味を知って、
胸がざわついて、
勢いで編集して、
タグまでつけて──
#言葉の代わりに出す一杯
(…………え?
これ……私……)
電車の揺れと同時に、
心臓が跳ねた。
(ちょ、ちょっと待って……
これ……店長に……伝えてない?)
いや、直接じゃない。
全然直接じゃない。
そんなつもりじゃなかった。
でも──
店長が考えた言葉を、
私が使ってる。
それだけで、
意味があるように見えてしまう。
(わぁぁぁぁぁ……!)
思わずスマホを胸に押し当てる。
周りの乗客は誰も気づかない。
でも葵の顔は真っ赤だった。
なんであのタグつけたの。
なんであの言葉選んだの。
なんで“驚いた”なんて書いたの。
(私、なにしてるの……)
昨夜のいじけと、
会えなかった寂しさと、
教えてくれなかったことへの小さな不満と、
距離のせいで揺れた気持ち。
全部が混ざって、
あんな投稿になった。
冷静になればなるほど、
恥ずかしさが押し寄せてくる。
(……店長、見るよね。
絶対見るよね……)
電車の窓に映る自分の顔が、
いつもより少し赤い。
(あぁぁ……どうしよう……)
でも、
投稿を消す気にはならなかった。
だって──
ほんの少しだけ、
伝わってもいいと思ってしまったから。




