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20年間忘れられなかった人と、もう一度恋をする  作者: 柚原 澄香


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我に返った葵

翌朝。

少し寝不足のまま、

いつもの時間に家を出た。


電車はそこそこ空いていて、

吊り広告の下に立ちながら、

ぼんやりとスマホを開く。


通知がひとつ。

昨夜の投稿に、

いくつか“いいね”がついていた。


(……あ、そういえば編集したんだった)


軽い気持ちで、

自分の投稿を開く。


「知らないで投稿したけど、

 意味を知って少し驚いた。」


(…………)


一拍置いて、

脳内に昨夜の自分がフラッシュバックする。


ギムレットの意味を知って、

胸がざわついて、

勢いで編集して、

タグまでつけて──


#言葉の代わりに出す一杯


(…………え?

 これ……私……)


電車の揺れと同時に、

心臓が跳ねた。


(ちょ、ちょっと待って……

 これ……店長に……伝えてない?)


いや、直接じゃない。

全然直接じゃない。

そんなつもりじゃなかった。


でも──

店長が考えた言葉を、

 私が使ってる。


それだけで、

意味があるように見えてしまう。


(わぁぁぁぁぁ……!)


思わずスマホを胸に押し当てる。

周りの乗客は誰も気づかない。

でも葵の顔は真っ赤だった。


なんであのタグつけたの。

なんであの言葉選んだの。

なんで“驚いた”なんて書いたの。


(私、なにしてるの……)


昨夜のいじけと、

会えなかった寂しさと、

教えてくれなかったことへの小さな不満と、

距離のせいで揺れた気持ち。


全部が混ざって、

あんな投稿になった。


冷静になればなるほど、

恥ずかしさが押し寄せてくる。


(……店長、見るよね。

 絶対見るよね……)


電車の窓に映る自分の顔が、

いつもより少し赤い。


(あぁぁ……どうしよう……)


でも、

投稿を消す気にはならなかった。


だって──

ほんの少しだけ、

伝わってもいいと思ってしまったから。

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