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20年間忘れられなかった人と、もう一度恋をする  作者: 柚原 澄香


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カクテル言葉の意味を知る

部屋に戻って、

コートを椅子に掛けたまま、しばらく動けなかった。


会えなかった。

ただそれだけなのに、

胸の奥に小さな棘みたいなものが残っている。


ソファに腰を下ろし、

なんとなくスマホを開いた。


投稿したギムレットの写真が

静かに光っている。


(……別に、深い意味なんてなかった)


そう思いながら、

気づけば検索窓に指が伸びていた。


「ギムレット カクテル言葉」


軽い気持ちだった。

ほんの確認のつもり。


でも、

表示された文字を見た瞬間、

息が止まった。


“遠い人を想う”


(……そういう意味、なの?)


知らなかった。

知らないまま頼んだ。

知らないまま投稿した。


なのに、

今の自分の気持ちに

あまりにも重なってしまって、

胸の奥がじんと熱くなる。


(……教えてくれなかったくせに)


北海道に行くことも、

延長のことも。


言われていたら、

今日みたいな夜にはならなかったのに。


そんなことを思ってしまう自分が

少しだけ情けなくて、

少しだけ悔しい。


投稿を消そうかと思った。

でも、

消すほどのことでもない。

むしろ消したら、

余計に意識しているみたいで嫌だ。


(……少しだけ、言ってもいいよね)


編集画面を開く。

指が迷う。


素直な言葉なんて書けない。

でも、

何も言わないのも違う気がした。


ゆっくりと文字を打つ。


「知らないで投稿したけど、

 意味を知って少し驚いた。」


これくらいなら、

言い訳にも、

本音にもならない。


でも、

伝えたいことの輪郭だけは残せる。


最後に、

そっとハッシュタグを添えた。


#言葉の代わりに出す一杯


夜の灯-tokyo-のコンセプト。

店長なら、

きっと分かる。


投稿を保存すると、

胸の奥の棘が少しだけ丸くなった気がした。


(……別に、責めてるわけじゃない)

(でも……教えてくれてもよかったのに)


そんな小さな“いじけ”を抱えたまま、

葵は静かに目を閉じた。

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