ギムレットに揺れる大和
ギムレットの写真を閉じたあと、
大和はしばらく動けなかった。
胸の奥に、
小さな波紋のような期待が広がっていく。
(……期待しても、いいのか?)
思った瞬間、
自分でその考えを押しつぶす。
期待なんて、
してはいけない。
自分は葵より11年も年上で、
今は北海道にいる。
何よりバイトと店長の関係だった。
そんな立場で、
何を期待するというのか。
なのに──
胸の奥で跳ねた感情は、
どうしても消えてくれなかった。
(……あの日のせいだ)
夜の灯-tokyo-で再会した日のことが、
鮮明によみがえる。
カウンター越しに葵の顔を見た瞬間、
心が跳ねた。
理由なんて分からない。
ただ、
もっと話したいと思った。
もっと顔を見ていたいと思った。
そんなふうに思ったのは、
いつ以来だっただろう。
他にもバイトはたくさんいた。
いろんな人と関わってきた。
でも葵だけは、
何年経ってもふと思い出す。
(……俺は、及川さんのことを……)
言葉がそこで止まる。
“好き”と言うには軽すぎる。
“特別”と言うには曖昧すぎる。
“忘れられない”と言うには、まだ早い。
どの言葉も、
しっくりこない。
ただひとつだけ確かなのは──
葵のギムレットひとつで、
こんなにも心が揺れるということ。
“遠い人を想う”。
(……俺のこと、想ってくれたのか?)
(…いや、意味なんてないかもしれない)
期待してはいけない。
でも
(……意味なんて知らずに頼んだだけかもしれない)
そう思うほど、期待してしまう自分が怖くなった。




