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遠い人を想う
北海道の夜は、
東京よりずっと静かだった。
新店舗の準備で散らかったカウンターを片付けながら、
大和はふとスマホを開いた。
通知は来ていない。
でも、癖のように
葵のアカウントを開いてしまう。
スクロールした指が止まった。
薄い緑色の光を宿したグラス。
ギムレット。
言葉も、
ハッシュタグもない。
写真だけ。
(……飲んだんだ)
胸の奥が、
小さく沈む。
ギムレットのカクテル言葉を知っている。
“遠い人を想う”。
葵が意味を知っているとは思わない。
ただ、
それでも──
胸がざわついた。
(なんで……)
言葉にならない感情が、
喉の奥に引っかかる。
東京の店に来たんだな。
でも、
会えなかった。
間に合わなかった。
(……言えばよかったのかな)
延長のことも、
北海道に来ることも。
でも言えなかった。
言ったら、
期待してしまいそうで。
期待して、
裏切られるのが怖かった。
画面の中のギムレットを見つめながら、
大和は小さく息を吐いた。
(……きれいに撮るんだな)
そう呟いた声は、
少しだけ寂しそうだった。
画面を閉じても、
薄い緑色の光が
目の奥に残っていた。




