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なんとなく選んだカクテル
オリンピックを飲み終えたあと、
葵はしばらくグラスを見つめていた。
大和はいない。
もう東京には。
でも、帰りたくなかった。
(……もう一杯だけ)
「ギムレットをお願いします」
意味なんて知らない。
ただ、
“今の気分に合う気がした”。
薄い緑色の光を宿したグラスが運ばれてくる。
その静けさに惹かれて、
スマホを取り出し、
写真を撮った。
店内の灯りと薄い緑が溶け合って、
思った以上にきれいに写った。
ふと、投稿画面を開く。
でも──
言葉が浮かばない。
何を書いても違う気がした。
(……もう、いいや)
ハッシュタグも、
コメントもつけずに、
写真だけをそのまま投稿した。
送信の音が、
やけに大きく響いた気がした。
画面を伏せると、
ギムレットの冷たさが
胸の奥にじわりと広がった。
遠い人を想う味がした。




