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20年間忘れられなかった人と、もう一度恋をする  作者: 柚原 澄香


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間に合わなかった光

延長が決まった「夜の灯 -tokyo-」。

今日なら、もしかしたら──

そんな期待を胸に、葵は店へ向かった。


行列は延長前より短く、

整理券もぎりぎり最後の一枚を手に入れた。


(……よかった)


胸の奥が少しだけ軽くなる。


順番が来て店内に入ると、

いつもの温かな空気が広がっていた。

でも──

そこに“大和の気配”はなかった。


声も、

動きも、

視線も、

どこにもない。


席に案内され、

メニューを開こうとした瞬間、

スマホが震えた。


画面には、大和の名前。

リールの通知。


胸がざわつく。

再生ボタンを押す。


> 「灯 -tokyo-、昼も夜も応援ありがとうございます」

> 「皆さまのおかげで、1ヶ月延長が決まりました」

> 「本当に嬉しいです」


背景は東京ではない。

コンクリート打ちっぱなしの空間。

冷たい空気が画面越しにも伝わる。


> 「僕は次の出店地に来ています」

> 「まだ詳しい場所は言えませんが……北海道です」

> 「灯 -Hokkaido- もよろしくお願いいたします」


画面が暗転する。


葵はしばらく動けなかった。

胸の奥が、静かに沈んでいく。


(……そうなんだ)


ゆっくりとメニューを閉じる。

大和はいない。

もう東京には。


でも、

帰りたくなかった。


せめて、

あの夜の気配だけでも感じていたい。


小さく息を吸って、

店員に声をかける。


「……オリンピックをお願いします」


最初に大和が出してくれた一杯。

言葉の代わりに差し出された、

あの夜の味。


運ばれてきたグラスの琥珀色が、

ほんの少しだけ揺れた。


葵の胸の奥も、

同じように揺れていた。

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