間に合わなかった光
延長が決まった「夜の灯 -tokyo-」。
今日なら、もしかしたら──
そんな期待を胸に、葵は店へ向かった。
行列は延長前より短く、
整理券もぎりぎり最後の一枚を手に入れた。
(……よかった)
胸の奥が少しだけ軽くなる。
順番が来て店内に入ると、
いつもの温かな空気が広がっていた。
でも──
そこに“大和の気配”はなかった。
声も、
動きも、
視線も、
どこにもない。
席に案内され、
メニューを開こうとした瞬間、
スマホが震えた。
画面には、大和の名前。
リールの通知。
胸がざわつく。
再生ボタンを押す。
> 「灯 -tokyo-、昼も夜も応援ありがとうございます」
> 「皆さまのおかげで、1ヶ月延長が決まりました」
> 「本当に嬉しいです」
背景は東京ではない。
コンクリート打ちっぱなしの空間。
冷たい空気が画面越しにも伝わる。
> 「僕は次の出店地に来ています」
> 「まだ詳しい場所は言えませんが……北海道です」
> 「灯 -Hokkaido- もよろしくお願いいたします」
画面が暗転する。
葵はしばらく動けなかった。
胸の奥が、静かに沈んでいく。
(……そうなんだ)
ゆっくりとメニューを閉じる。
大和はいない。
もう東京には。
でも、
帰りたくなかった。
せめて、
あの夜の気配だけでも感じていたい。
小さく息を吸って、
店員に声をかける。
「……オリンピックをお願いします」
最初に大和が出してくれた一杯。
言葉の代わりに差し出された、
あの夜の味。
運ばれてきたグラスの琥珀色が、
ほんの少しだけ揺れた。
葵の胸の奥も、
同じように揺れていた。




