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あの日の大和
そのとき、
スタッフが注文票を渡してきた。
「グラスホッパー、ひとつ」
大和の手が、
ほんの一瞬だけ止まった。
(……グラスホッパー)
“幸せ”
その意味が、
静かに胸の奥に落ちていく。
(……及川さん、か)
忙しさの中でも、
あの横顔はすぐに浮かぶ。
夜、
オリンピックを置いたときの表情。
昼間、白いコックコートで見たときの驚いた目。
そして今日、
黒シャツの自分を遠くから見ていた気配。
(こんなやり取り、いいよな)
言葉じゃなくて、
一杯で気持ちを伝える。
それがこの店のコンセプトであり、
自分が一番好きなところでもある。




