初めて出会ったカクテル
カウンターに座った瞬間、
胸の奥がずっと落ち着かなかった。
大和と交わした言葉は、
ほんの数行。
「……私、あまりカクテル詳しくないので」
「おすすめをください」
それだけなのに、
声が少し震えていたのが自分でも分かった。
大和は静かに頷き、
シェイカーを手に取った。
カウンター越しに聞こえる氷の音が、
やけに澄んで聞こえる。
金属が触れ合う小さな音。
大和の手元の動きは、
昔と同じで、
でもどこか大人になっていた。
ブランデーの香りがふわりと漂う。
オレンジの甘さが重なる。
シェイクのリズムが、
自分の心臓の鼓動と重なっていく。
(……何を作ってるんだろう)
大和はグラスに注ぎ、
そっと目の前に置いた。
「……オリンピックです」
その一言が、
静かに胸の奥に落ちた。
オリンピック。
聞いたことのないカクテル。
でも、
なぜか心がざわつく。
グラスを手に取ると、
ほんの少しだけ手が震えた。
香りは甘くて、
でも奥に少しだけ苦味がある。
口に含むと、
オレンジの柔らかい甘さが広がって、
そのあとにブランデーの深さが追いかけてくる。
(……美味しい)
でもそれ以上に、
胸の奥がじんわり熱くなる。
大和の横顔が視界の端に入る。
照明に照らされた手元。
静かな呼吸。
(……どうして、これを)
意味なんて知らない。
ただの“おすすめ”のはずなのに、
どうしてこんなに胸がざわつくんだろう。
葵はグラスを置き、
静かに息を吐いた。
(……初めて飲むカクテルなのに)
(どうしてこんなに、心が揺れるんだろう)
その答えは、
まだ知らない。




