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大和が出したカクテル
葵は席に座り、
メニューを開くでもなく、
ただカウンターの木目を見つめていた。
言葉が出ないのは、
大和も同じだった。
18年ぶりに向かい合って、
何を言えばいいのか分からない。
でも、
何も言わなくても伝わるものがある気がした。
沈黙が、
不思議と苦しくなかった。
やがて、
葵が小さく息を吸った。
「……私、あまりカクテル詳しくないので」
「おすすめをください」
その声を聞いた瞬間、
胸の奥がきゅっと締まった。
大和は静かにシェイカーを取り、
手を動かし始めた。
ブランデー。
オレンジジュース。
オレンジキュラソー。
18年前には作れなかった一杯。
今の自分だから作れる一杯。
そして──
彼女にだけ出したい一杯。
シェイクの音が、
店内の静けさに溶けていく。
大和はグラスに注ぎ、
そっと目の前に置いた。
「……オリンピックです」
それだけ言った。
意味は言わない。
言えない。
言ってはいけない。
ただ、
彼女がこの一杯をどう受け取るのか──
それだけを静かに見守った。




