483/489
夜への期待
店内は明るくて、
木の香りがまだ少し残っていた。
スイーツの甘い匂い。
新しい店の空気。
そして──
カウンターの奥に、
白いコックコートの背中。
(……店長)
葵は息を呑んだ。
大和は、
スイーツの仕上げをしていた。
真剣な横顔。
丁寧な手つき。
照明に照らされる手元。
同僚たちは別々のテーブルに案内され、
葵も1人で小さなテーブルに座る。
(……見える)
距離はある。
話せない。
でも、
視界の端にずっと大和がいる。
スイーツの仕上げをしていた大和が、
ふと顔を上げた。
目が合った。
一瞬、
手が止まる。
(……及川さん)
でもすぐに仕事に戻る。
戻らざるを得ない。
葵は、
胸が痛いほど高鳴るのを感じた。
(……気づいてくれた)
それだけで十分だった。
女子たちが
「美味しかった〜!」
「また来たい!」
と盛り上がりながら店を出る。
葵も笑ってついていく。
でも、
店を出る瞬間、
厨房の奥から
そっと視線が送られているのに気づいた。
振り返らない。
振り返れない。
(……夜のバーも行ってみたいな)
その気持ちが、
静かに芽を出した。




