表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20年間忘れられなかった人と、もう一度恋をする  作者: 柚原 澄香


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

481/489

オープン前日

オープン前日の店内は、

工事の音も消え、

静けさだけが残っていた。


昼のスイーツの仕込み台には、

まだ誰も触っていない真新しいボウルが並び、

夜のバーのカウンターには、

磨き上げたグラスが整然と並んでいる。


(……明日、ここに人が入るのか)


胸の奥がじんわり熱くなる。


告知は想像以上の反響だった。

駅前の大型ビジョン、SNS広告、雑誌の特集。

「灯 -tokyo-」の名前は、

一日で東京中に広がった。


そして、

大和の横顔が一瞬だけ映る動画は、

思った以上に話題になった。


「大和さん、メディアから追加取材の依頼来てます」

「夜のカクテルのコンセプト、記事にしたいって」


スタッフが次々と声をかけてくる。


(……ありがたいけど、落ち着かないな)


大和は苦笑しながら、

バーの棚に並べたボトルを見上げた。


夜のメニューは、

ただのカクテルではない。


“言葉の意味を持つカクテル”

それが大和のこだわりだった。


- ブルームーン

 ──「叶わぬ恋」

- オールドファッションド

 ──「変わらない想い」

- サイドカー

 ──「別れの余韻」

- ホワイトレディ

 ──「純粋」

- アレキサンダー

 ──「甘い誘惑」

- マティーニ

 ──「最上の一杯」=「あなたが最高」


(……意味なんて、誰も気にしないかもしれないけど)


でも、

大和にとっては大事だった。


“言葉にできない気持ち”を

カクテルに託すこと。


それは、

自分自身のためでもあった。


ふと、

昼間の大型ビジョンに映った自分の横顔を思い出す。


(……見てくれたかな)


名前は思い浮かべない。

でも、

胸の奥に浮かぶ“誰か”はひとりだけだった。


スタッフが声をかける。


「大和さん、明日の動線確認お願いします」


「はい」


大和は気持ちを切り替え、

カウンターの内側に立った。


明日、

ここに人が来る。

スイーツを食べ、

酒を飲み、

誰かの一日が少しだけ温かくなる。


その中に──

あの人が来る可能性も、

ゼロじゃない。


(……来なくてもいい。

 でも、来てくれたら嬉しい)


そんな矛盾した気持ちを抱えたまま、

大和は最後の準備に取りかかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ