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熱燗の湯気
徳利からそっと注いだ熱燗の湯気が、
柔らかい灯りに溶けていく。
木のカウンターは少し使い込まれていて、
指先に触れると、
18年前の夜の温度がそのまま残っているようだった。
(……来てたんだ、去年)
和田さんの言葉が、
まだ胸の奥で静かに揺れている。
(……俺がいない時に)
猪口を持ち上げると、
湯気がふわりと揺れた。
白ワインの投稿が頭に浮かぶ。
> #乾杯しよう
あの言葉が、
なぜか離れない。
大和はスマホを取り出し、
カウンターの端に置かれた猪口を撮った。
湯気。
木目。
灯の影。
説明はいらない。
タグもいらない。
ただ、
胸の奥に残った言葉だけを打ち込む。
> 乾杯
送信ボタンを押した瞬間、
胸が少しだけ熱くなる。
(……誰に向けたわけでもない)
そう思いながら、
でもどこかで分かっていた。
この一言が、
きっと届く相手がいることを。
猪口をそっと口元に運ぶ。
熱燗の温度が、
静かに胸のざわつきを溶かしていった。




