乾杯しよう
カウンターに座った大和に、
和田さんが湯気の立つ味噌汁を置いた。
「久しぶりだな。
北海道はどうだ」
「……まぁ、ぼちぼちです」
大和は曖昧に笑い、
視線を落とす。
和田さんはふっと思い出したように言った。
「そういえば去年の忘年会でさ。
お前の知り合いの女の子が来てたぞ」
大和の手が止まる。
「……知り合い?」
「名前は……ええと……葵ちゃん、だったかな。
“昔ここでバイトしてたんです”って言ってたよ」
大和の胸が、
静かに、でも確実に揺れた。
(……及川さんが)
(……ここに来てたんだ)
(……俺がいない時に)
和田さんは続ける。
「懐かしそうに店内見てたよ。
“ここ、変わってないですね”って。
なんか……大事な場所みたいだったな」
大和は言葉を返せなかった。
胸の奥がじんわり熱くなる。
(……あの時、俺が東京に来られてたら)
(……会えてたのか)
(……いや、会うつもりなんてなかったはずだろ)
でも、
葵がこの店に立っていた光景が、
頭の中に鮮明に浮かんでしまう。
カウンターに立つ葵。
灯りに照らされた横顔。
18年前の記憶と重なる。
(……気配を感じてたのは、俺だけじゃなかったのか)
白ワインの投稿が胸に蘇る。
> #ひとりディナー
> #乾杯しよう
(……乾杯しよう、か)
(……俺に向けて?
いや、そんなはず……)
でも、
胸の奥が静かに疼く。
(……なんでこんなに気になるんだ)
答えは出ない。
ただ、
葵の“気配”だけが、
この店の灯りと一緒に胸に残った。




