聖地巡礼
葵は、最近の自分が少しだけ変わったことに気づいていた。
大和の投稿に呼応するように、
空を撮り、
ココアを左に寄せ、
光の入り方をそっと整える。
それだけで、
胸の奥がふわっと温かくなる日々。
(……幸せだな)
最初はそれだけで十分だった。
十分すぎるほどだった。
大和が見てくれている。
それが分かるだけで、
一日が少しだけ軽くなる。
でも──
ある日、ふと気づいてしまった。
大和の投稿につく、
たくさんのコメント。
「素敵ですね」
「今日もおしゃれ」
「ラテアートかわいい」
みんな、
当たり前みたいに話しかけている。
(……いいなぁ)
胸の奥が、
ほんの少しだけざわついた。
自分も、
本当は話したい。
直接、言葉を交わしたい。
でも、できない。
コメント欄に書きかけては消す。
何度も、何度も。
(どうしよう……もっと、近づきたい)
その夜、
葵は検索窓にそっと指を置いた。
> 「ラテ 雲 カフェ 東京」
心臓が少しだけ早くなる。
大和が飲んでいたラテの店を探す。
会えるわけじゃない。
会うつもりもない。
でも、
同じ場所に行きたい。
同じ味を知りたい。
同じ空気を吸いたい。
その気持ちが止められなかった。




