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20年間忘れられなかった人と、もう一度恋をする  作者: 柚原 澄香


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呼吸が合う朝

部屋に差し込む朝の光の中で、

大和は淹れたコーヒーをぼんやり眺める。


ゆっくりと立ちのぼる湯気に癒され、

なんとなく、スマホを手に取る。


昨夜の乾杯の構図が、

まだ胸の奥に残っていた。


右側に寄せた自分のジョッキ。

左側に寄せた葵のグラス。


あの向かい合う形が、

どうしても頭から離れない。


大和は、

白いカップをテーブルの右側にそっと置いた。


光の入り方が綺麗だった。

それだけの理由で、

写真を一枚撮った。


#いい朝

#今日もがんばろう


投稿ボタンを押すと、

胸の奥が少しだけ軽くなった。


---


通勤前のキッチンで、

葵はスマホを開いた。


大和の投稿が目に入る。


白いカップ。

朝の光。

そして──

右側に寄せて置かれたコーヒー。


胸が、

ふっと温かくなった。


(……店長)


昨夜の乾杯の構図が蘇る。

右と左。

向かい合う形。


気のせいじゃなかった。

そう思った瞬間、

指先が自然に動いた。


葵は、

自分のカップを左側に置いて写真を撮った。


柔らかい光が差し込むキッチン。

湯気が少しだけ揺れている。


#いってきます

#いい朝


投稿したあと、

胸の奥がじんわりと熱くなった。


---


大和は、

移動前にスマホを開いた。


葵の投稿が目に入る。


左側に寄せたカップ。

柔らかい光。

控えめなタグ。


大和は、

息をひとつだけ飲んだ。


……やっぱり。


胸の奥で、

静かに何かがほどけていく。


言葉はない。

説明もない。


でも、

確かに呼吸が合っている。


それだけで、

今日が少しだけ違う朝に思えた。

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