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20年間忘れられなかった人と、もう一度恋をする  作者: 柚原 澄香


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往復の始まり

朝の光がカーテンの隙間から差し込んで、

葵はゆっくり目を開けた。


頭が少し重い。

昨夜のビールのせいだけじゃない。

胸の奥に、あの投稿の余韻がまだ残っている。


枕元のスマホを手に取る。

画面をつけた瞬間、小さな赤い丸が目に飛び込んできた。


通知を開くと、

大和が、昨夜の投稿に “いいね” をつけていた。


心臓が一拍だけ強く跳ねる。


……見てくれたんだ。


たったそれだけのことなのに、

胸の奥がふわりと温かくて

少しくすぐったくなる。


昨夜の自分の行動を思い出す。

冷蔵庫を開けたこと。

左側に寄せて撮った写真。

乾杯みたいだと思ってしまった瞬間。


布団の中でそっと目を閉じる。

恥ずかしい。

でも、消したいとは思わなかった。


スマホを開き直し、大和の投稿を探す。

右側に寄ったジョッキ。

立呑屋の雑多な背景。

「#たまには1人飲み」


昨夜は見ているだけで精一杯だった。

でも今は、そっと画面の右下を押す。


“いいね” が灯った瞬間、指先にじんわり熱が広がった。


---


同じ頃、

部屋のカーテンを開けた大和は、

白い東京の朝をぼんやり眺めていた。


コーヒーを淹れながら、

なんとなくスマホを開く。


通知がひとつ。


aoiが、あなたの投稿に “いいね” をつけました。


大和は息をひとつだけ飲んだ。


……及川さん。


胸の奥が静かに、確かに揺れる。


昨夜の乾杯の構図がふっと蘇る。

右側の自分のジョッキ。

左側の葵のグラス。

向かい合うように置かれた二つのグラス。


今朝になっても、

その光景が胸のどこかに残っていた。


画面に灯った“いいね”を見つめながら、

大和はそっと息を吐いた。


言葉はひとつも交わしていない。

でも、

確かに“往復”が始まっていた。

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