往復の始まり
朝の光がカーテンの隙間から差し込んで、
葵はゆっくり目を開けた。
頭が少し重い。
昨夜のビールのせいだけじゃない。
胸の奥に、あの投稿の余韻がまだ残っている。
枕元のスマホを手に取る。
画面をつけた瞬間、小さな赤い丸が目に飛び込んできた。
通知を開くと、
大和が、昨夜の投稿に “いいね” をつけていた。
心臓が一拍だけ強く跳ねる。
……見てくれたんだ。
たったそれだけのことなのに、
胸の奥がふわりと温かくて
少しくすぐったくなる。
昨夜の自分の行動を思い出す。
冷蔵庫を開けたこと。
左側に寄せて撮った写真。
乾杯みたいだと思ってしまった瞬間。
布団の中でそっと目を閉じる。
恥ずかしい。
でも、消したいとは思わなかった。
スマホを開き直し、大和の投稿を探す。
右側に寄ったジョッキ。
立呑屋の雑多な背景。
「#たまには1人飲み」
昨夜は見ているだけで精一杯だった。
でも今は、そっと画面の右下を押す。
“いいね” が灯った瞬間、指先にじんわり熱が広がった。
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同じ頃、
部屋のカーテンを開けた大和は、
白い東京の朝をぼんやり眺めていた。
コーヒーを淹れながら、
なんとなくスマホを開く。
通知がひとつ。
aoiが、あなたの投稿に “いいね” をつけました。
大和は息をひとつだけ飲んだ。
……及川さん。
胸の奥が静かに、確かに揺れる。
昨夜の乾杯の構図がふっと蘇る。
右側の自分のジョッキ。
左側の葵のグラス。
向かい合うように置かれた二つのグラス。
今朝になっても、
その光景が胸のどこかに残っていた。
画面に灯った“いいね”を見つめながら、
大和はそっと息を吐いた。
言葉はひとつも交わしていない。
でも、
確かに“往復”が始まっていた。




