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20年間忘れられなかった人と、もう一度恋をする  作者: 柚原 澄香


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スーツの大和

翌日の21時。

予告されると待ちたくなる。

スマホを抱えてちょこんとソファーに座って

壁掛け時計の秒針を見つめていた。

1番に見たかったから。


“リールを投稿しました”


その通知を見た瞬間、

葵の胸の奥がふっと温かくなる。


画面を開くと、

会議室の柔らかい照明の下で、

スーツ姿の大和が映った。


>え?スーツ?初めて見たかも。


大和はネクタイを少し直しながら、

カメラの向こうにいる撮影者へ

照れたように笑いかける。


---


「ちょっとねぇ、スーツって落ち着かないんだよね…

皆さんは普通に着こなしてるのかもしれないんだけど、

僕はスーツに着られちゃうから…。

大丈夫?なんか変じゃない?」


声が少し高くて、柔らかい。

料理動画のときとは違う、

“素の大和”がそのまま出ていた。


撮影者の笑い声が入る。

大和は照れたように目を細め、

小さく息を吐いて肩の力を抜く。


その一瞬が、

画面越しなのにやけに近く感じた。


---


そこから表情がすっと変わる。

声のトーンが落ち着き、

仕事の顔になる。


「リール、久しぶりになっちゃいました。

今、新しい挑戦の準備をしています。

しばらく東京に滞在します。」


丁寧で、落ち着いていて、

でもどこか優しさが残る声。


葵は思わず息を止めた。


> こんな声で、

> こんな表情で、

> 仕事してるんだ。


最後に大和は軽く会釈し、

画面がふっと暗転する。


---


投稿の下には、

大和のコメントが添えられていた。


「冒頭のおしゃべり、カットし忘れました…

本当はもっと真面目なリールにしたかったんですけど、すみません。

スーツ、やっぱり慣れないですね。」


その言葉を読んだ瞬間、

葵の胸の奥がじんわりと温かくなる。


> 変じゃない。

> むしろ、すごく似合ってる。

> そんなふうに照れる店長が、

> いちばん………。


画面を閉じても、

大和の声と表情が

いつまでも頭から離れない。

口元が緩むのを感じて

誰もいないのに慌てて顔をクッションで隠す。

クッションの裏で葵の本音は見えなかった。

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