スーツの大和
翌日の21時。
予告されると待ちたくなる。
スマホを抱えてちょこんとソファーに座って
壁掛け時計の秒針を見つめていた。
1番に見たかったから。
“リールを投稿しました”
その通知を見た瞬間、
葵の胸の奥がふっと温かくなる。
画面を開くと、
会議室の柔らかい照明の下で、
スーツ姿の大和が映った。
>え?スーツ?初めて見たかも。
大和はネクタイを少し直しながら、
カメラの向こうにいる撮影者へ
照れたように笑いかける。
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「ちょっとねぇ、スーツって落ち着かないんだよね…
皆さんは普通に着こなしてるのかもしれないんだけど、
僕はスーツに着られちゃうから…。
大丈夫?なんか変じゃない?」
声が少し高くて、柔らかい。
料理動画のときとは違う、
“素の大和”がそのまま出ていた。
撮影者の笑い声が入る。
大和は照れたように目を細め、
小さく息を吐いて肩の力を抜く。
その一瞬が、
画面越しなのにやけに近く感じた。
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そこから表情がすっと変わる。
声のトーンが落ち着き、
仕事の顔になる。
「リール、久しぶりになっちゃいました。
今、新しい挑戦の準備をしています。
しばらく東京に滞在します。」
丁寧で、落ち着いていて、
でもどこか優しさが残る声。
葵は思わず息を止めた。
> こんな声で、
> こんな表情で、
> 仕事してるんだ。
最後に大和は軽く会釈し、
画面がふっと暗転する。
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投稿の下には、
大和のコメントが添えられていた。
「冒頭のおしゃべり、カットし忘れました…
本当はもっと真面目なリールにしたかったんですけど、すみません。
スーツ、やっぱり慣れないですね。」
その言葉を読んだ瞬間、
葵の胸の奥がじんわりと温かくなる。
> 変じゃない。
> むしろ、すごく似合ってる。
> そんなふうに照れる店長が、
> いちばん………。
画面を閉じても、
大和の声と表情が
いつまでも頭から離れない。
口元が緩むのを感じて
誰もいないのに慌てて顔をクッションで隠す。
クッションの裏で葵の本音は見えなかった。




