文字だけのリール
結衣とのDMを終えた夜。
湯気の立つマグを手に、
葵はソファに沈み込んだ。
胸の奥に残ったざわめきが、
まだ消えない。
> 東京にしばらく行く──
> そんなこと、言ってたんだ。
その言葉だけが、
何度も頭の中で反芻される。
スマホを置いたまま、
ぼんやり天井を見ていたときだった。
テーブルの上で、
スマホがふっと光った。
通知の文字を見た瞬間、
葵の心臓が小さく跳ねた。
“リールを投稿しました”
大和のアカウント。
思わず息を呑む。
久しぶりの更新。
指先が勝手に動いて、
画面を開いた。
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動画が始まる。
映っているのは、
厨房の一角を切り取ったような静止画。
湯気の立つ鍋のアップ。
だしの色が透けるような写真。
そして、
東京の街並みを遠くから撮った一枚。
どれも、
大和本人は映っていない。
その上に、
白い文字がふわりと流れ始めた。
「リール久しぶりになっちゃいました」
数秒後、
次の文字が重なる。
「新しい挑戦の準備中です」
そして最後に、
静かに一文が浮かぶ。
「しばらく東京に滞在します」
胸の奥が、
じんわりと熱を帯びる。
声はない。
姿もない。
ただ文字が流れているだけ。
なのに、
画面の向こうに
確かに“彼”がいた。
葵はスマホを胸に引き寄せた。
> 久しぶりに、大和の近況に触れられた。
> それだけで、嬉しい。
そう思った瞬間、
画面に最後の一文がふわりと現れた。
「明日21時に、もう一本リールを上げます」
「次は、ちゃんと映ります」
その言葉が、
静かに胸の奥で灯りのようにともった。




