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去年の冬の記憶が動き出す
冬の匂いがした瞬間、胸の奥がざわついた。
冷たい空気が頬に触れただけで、
一年間そっと蓋をしていた記憶が、静かに目を覚ます。
去年の冬。
あの夜のことを、葵はずっと思い出さないようにしてきた。
でも、冬はいつも勝手に連れてくる。
忘れたふりをしていたものを、
そっと手のひらに戻すみたいに。
あの夜──
大和のLIVEを見てしまった瞬間、
胸の奥がぎゅっと掴まれた。
気づいたら、サンダルのまま外に飛び出していた。
冬の夜風が足元を刺すように冷たかったのに、
走ることをやめられなかった。
「会いたい」と思ったわけじゃない。
ただ、見たかった。
それだけだった。
息が切れるほど走って、居酒屋「灯」へ向かったあの日。




