446/468
あの日の大和
居酒屋「灯」に着いたとき、店はもう営業を終えていた。
暖簾の向こうから、内輪の打ち上げの笑い声だけが聞こえる。
葵はただ立ち尽くした。
走ってきた意味なんて、どこにもなかった。
やがて、店の灯りがふっと消えた。
扉が開く気配。
とっさに隠れた。
出てきたのは、大和だった。
横顔。
後ろ姿。
冬の道に溶けていく影。
声は聞けなかった。
名前も呼ばれなかった。
目も合わなかった。
でも、見れた。
それだけで胸がいっぱいになった。
帰り道、涙が止まらなかった。
嬉しくて、どうしようもなかった。
あの夜の記憶は、光輝いて残ってる。




