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20年間忘れられなかった人と、もう一度恋をする  作者: 柚原 澄香


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うさぎの重箱

年末のスーパーで、

私は黒豆の棚の前で立ち止まった。


「……作ってみようかな」


ひとりでおせちを作るなんて、

これまで考えたこともなかった。


手間がかかるし、

そもそも量が多い。


でも今年は、

“何かを作りたい”気持ちがあった。


時間が余っているから、ではなくて、

心に少しだけ余裕ができたから。


結局、

黒豆と伊達巻の材料だけを買って帰った。


全部は作れなくてもいい。

失敗したっていい。

そんな気楽な感じがちょうどいい。



夜、台所に立つ。


黒豆を水に浸しながら、

「こんなこと、いつぶりだろう」

とふと思う。


鍋の中で豆がゆっくり膨らんでいくのを見ていると、

時間が穏やかに流れていく。


ひとりの台所は静かだけれど、

その静けさが今日は心地よかった。


伊達巻を焼くとき、

卵の甘い匂いが部屋に広がる。


去年の年末は、

こんな余裕なかったなと思う。



作ったおせちを小さな重箱に詰める。

自分で選んだ、うさぎの模様が入った重箱。


その小さな重箱を見ていると、

胸の奥がじんわり温かくなった。


「悪くないかも」


声に出すと、

その言葉が静かな部屋にすっと馴染んだ。

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