表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20年間忘れられなかった人と、もう一度恋をする  作者: 柚原 澄香


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

436/495

届かない気配

結衣にDMを送るのは、これが初めてだった。


いつもは向こうから届く短い近況報告。

葵はそれに返事をするだけで、

自分から送ろうと思ったことなんて一度もなかった。


だから、

送信画面を開いただけで胸がざわついた。


何を書けばいいのか分からなくて、

打っては消してを繰り返す。


ようやく残ったのは、

当たり障りのない、季節の話だけだった。


「久しぶりだね。

東京は桜が咲いたよ。

北海道はまだ寒いのかな」


送信ボタンを押した瞬間、

胸の奥がきゅっと縮む。


“初めて自分から送った”

その事実だけで、心が揺れた。


---

返事は思ったより早く届いた。


「葵さん、久しぶりです

こっちはまだ寒いですよ

雪も少し残ってます

大和さん、エリアマネージャーの仕事が忙しそうで

最近あまりお店に来ないんです」


読み終えた瞬間、

胸の奥で何かが静かに揺れた。


店長。

忙しいんだ。

店に立てないほど。


だから、リールも更新されないんだ。


理由が分かっただけなのに、

安心と寂しさが同時に押し寄せてくる。


(……遠いな)


距離のことじゃない。

気持ちのことでもない。


“今の大和”が、

葵の知らないところで動いている。

その事実が、胸にじんと染みた。


---


帰り道、桜が散りはじめていた。


風が吹くたびに、

花びらがふわりと舞い上がって、

アスファルトに淡い色を落としていく。


周りの人たちは写真を撮って、

「もう散っちゃうね」と笑っていた。


葵はただ、立ち止まって見ていた。


桜が散るのを見て、

何も感じない春なんて、

今までなかった。


(どうして、私はこんなに空っぽなんだろう)


大和の近況を知れて、

ほんの少しだけ救われたのに、

その救いがまた痛みに変わる。


届かない気配。

触れられない距離。

言えない気持ち。


---


家に帰ると、

俊介の気配が消えた静けさが

また胸に落ちてくる。


でも今日は、

その静けさの奥に

“大和”という名前が

かすかに残っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ