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未読LINEの優しさに触れる
俊介がいなくなった家は、
驚くほど静かだった。
マグカップはそのまま。
ツリーの箱もそのまま。
空気だけが、ぽっかり空いている。
私はスマホを手に取る。
通知は、ずっと溜まったまま。
触れられなかった言葉たち。
震える指で、
初めて“本文”を開いた。
“おはよう、今日暖かいよ”
“無理しないで”
“帰り遅いなら気をつけて”
“おやすみ、ちゃんと寝れてる?”
優しさしかない。
責める言葉は一つもない。
胸が締めつけられる。
(俊介……ごめん……ごめんね…)
涙が出そうになる。
息が苦しい。
私は玄関へ走った。
靴をつっかけて外へ飛び出す。
春の風が頬を刺す。
(俊介……!)
でも、もう俊介はいない。
エレベーターは閉まっている。
階段にも足音はない。
外に出ても、春の光だけが明るい。
何も言えなかった…
ずっと支えてくれた俊介に
ありがとうも言えてないよ。
春に染まることのできない葵が
ただただ佇んでいた。




