表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20年間忘れられなかった人と、もう一度恋をする  作者: 柚原 澄香


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

427/489

葵を待つ俊介の夜

玄関の灯りをつけたまま、俊介はキッチンに立っていた。


味噌汁の鍋から、ゆっくりと湯気が立ちのぼる。

煮干しの香りが部屋に広がり、静かな夜の空気を少しだけ温めた。


焼き魚は焦げないように弱火でじっくり焼く。

副菜は、葵が好きだったほうれん草のおひたし。


料理は得意だ。

結婚してから、自然と自分が作るようになった。


でも今日は、いつもより丁寧に、

いつもよりゆっくりと手を動かしていた。


(……今日だけは、帰ろう)


そう決めて、仕事を早めに切り上げた。


葵と向き合うために。

逃げずに、ちゃんと話すために。


テーブルに二人分の箸を置き、

俊介は深く息を吐いた。


(葵の心の中に……ずっと誰かがいるのは、分かってた)


それは影のような存在だった。

結婚した頃から、ずっと。


ふと遠くを見る目。

触れたときの微かな緊張。

名前を出さない誰かへの想い。


でも影なら、自分が埋められると思っていた。

代わりでいい、と。


(……でも、もう違うんだよな)


最近の葵は、影を見ていない。

“誰か”そのものを見ている。


その“誰か”が誰なのか──

俊介はもう分かっていた。


大和さん。


名前を口にしなくても、

葵の沈黙がすべてを語っていた。


(俺じゃ……もう埋められないんだな)


怒りでも嫉妬でもない。

ただ、静かな事実として胸に落ちた。


俊介は味噌汁の火を止め、

テーブルの位置を少し整えた。


葵が帰ってきたとき、

逃げられないように。

でも、責められないように。


ただ、向き合えるように。


玄関の鍵が回る音がした。


俊介の心臓が、静かに跳ねた。


葵が帰ってきた。


俊介は、息を整えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ