美咲の墓前で
ホテルを出ると、
東京の冬の空気が頬に触れた。
北海道の鋭い寒さとは違う、
湿り気を含んだ冷たさ。
それが、胸の奥のざわつきを少しだけ落ち着かせてくれる。
大和は駅へ向かう途中、
小さな花屋に立ち寄った。
白い花を一束だけ選ぶ。
派手な色は似合わない。
美咲には、これくらいがちょうどいい。
(……命日、近いな)
そう思うと、
自然と足が墓地へ向かっていた。
コラボの達成感も、
昨夜のLIVEの余韻も、
すべてが静かに胸の奥で混ざり合っていく。
墓地に着くと、
冬の風がゆっくりと吹き抜けた。
大和は花を供え、
手袋を外して墓石に触れる。
冷たい。
でも、その冷たさが心地よかった。
「……仕事は順調だよ」
声には出さない。
心の中で短く報告する。
「東京店のコラボも無事に終わった。
スタッフにも恵まれてる」
言葉は少ない。
でも、それが大和の誠実さだった。
大和は墓石を見つめた。
そして、
自分でも驚くほど自然に、
心の中でつぶやいていた。
> 「美咲。俺、前に進めてるかな」
答えは返ってこない。
返ってくるはずもない。
でも、
冬の風がそっと頬を撫でた。
まるで、
「それでいいよ」と言われたような気がした。
大和は静かに手を合わせ、
目を閉じる。
長く祈らない。
でも深く、静かに。
祈り終えると、
スマホを取り出して時間を確認した。
(……そろそろ空港に向かうか)
いつもの日常に戻る。
北海道の店が待っている。
でも、
胸の奥には小さな灯りが残っていた。
その灯りの正体を、
大和はまだ知らない。
ただ、
冬の空気の中で、
ほんの少しだけ心が温かかった。




