大和の休日
荷物を詰め終えた部屋は、
もうすぐチェックアウトを迎えるホテルとは思えないほど静かだった。
コラボが終わった翌朝。
大和の胸には、
久しぶりに“やり切った”という感覚が残っていた。
(……無事に終わったな)
東京店のスタッフの顔が浮かぶ。
忙しかったけれど、
悪くない数日だった。
スマホが震える。
北海道の居酒屋「灯」にいる結衣からのメッセージ。
> 「せっかくだから、東京で休日過ごしてきたらどうですか?
> 大和さんのことだから、即帰ってこようとしてません?」
思わず苦笑が漏れた。
(……見透かされてるな)
確かに、
このまま空港に向かうつもりだった。
仕事が終わればすぐ帰る。
それがいつもの癖。
でも、
結衣の言葉が胸に残る。
(……休日、か)
47歳になって、
“自分のための時間”をどう使えばいいのか分からない。
東京で何をすればいいのかも分からない。
ふと、
スマホのフォロワー欄に目が止まる。
“及川さん”。
(……LIVE、見てくれたのかな)
期待というほど強い感情じゃない。
ただ、胸の奥に小さな波紋が広がる。
その波紋が、
大和の心の奥に沈んでいた別の記憶をそっと浮かび上がらせた。
冬。
命日。
美咲。
(……そうだ。行っておくか)
北海道に戻る前に、
手を合わせていきたい。
それなら、
“東京で半日過ごす理由”としても自然だった。
大和は静かに立ち上がり、
コートを手に取った。
(……行こう)
誰に言うでもなく、
小さく呟いた声が部屋に落ちた。




