葵の帰り道
サンダルの底が、
冬のアスファルトに触れるたびに冷たさが突き上げてくる。
でも、
胸の奥はずっと熱いままだった。
(……いた)
(本当に、いたんだ)
涙が止まらない。
悲しくてじゃない。
苦しくてでもない。
嬉しくて。
声だけでも胸がいっぱいだったのに、
最後の最後で──
光に照らされた横顔が一瞬だけ見えた。
それだけで、
17年分の時間が一気に胸に流れ込んできた。
(夢じゃなかった)
(同じ街にいたんだ)
(同じ夜にいたんだ)
白い息が震える。
涙で視界が滲む。
サンダルの足先は冷えて痛いのに、
心だけはずっと温かい。
歩きながら、
葵は何度も袖で涙を拭った。
でも拭いても拭いても、
次の涙がこぼれる。
(……嬉しい)
(会えなくても、見えただけで……)
胸の奥がぎゅっと締めつけられる。
でもその痛みは、
どこか優しい。
家の近くまで戻る頃には、
涙はようやく落ち着いてきた。
玄関の前で深呼吸をする。
冷たい空気が肺に入って、
少しだけ現実に戻る。
でも、
胸の奥の灯りは消えない。
(……ありがとう)
誰に向けた言葉なのか、
自分でも分からない。
ただ、
17年ぶりに見えた横顔が、
冬の夜の中で静かに揺れていた。




