大和の帰り道
店の灯を落とし、
最後のスタッフが「お疲れさまでしたー!」と手を振って帰っていく。
外は冬の夜。
吐く息が白い。
大和は鍵を閉め、
ふう、と長く息を吐いた。
「……今日でコラボ終わりか」
東京店の空気は、
やっぱりどこか懐かしい。
スタッフたちの笑い声。
忙しさ。
店の匂い。
あの頃の自分。
(……みんな、元気にしてるかな)
さっきLIVEで話した“結婚式に呼んでくれた元スタッフ”のことを思い出す。
そして、
ふと胸の奥に浮かぶ名前。
及川さん。
(……フォローしてくれたんだよな)
通知を見たとき、
胸の奥が少しだけざわついた。
いいねもくれた。
あの子らしい、控えめな反応。
17年前。
ただの新人バイト。
特別な関係があったわけじゃない。
でも──
弱いのに強がるところが、妙に印象に残っている。
忙しさに飲まれて、
余裕もなくて、
自分は既婚者で、
美咲の闘病も始まっていて。
それでも、
ふとした瞬間に思ったことがある。
(……守ってやりたい、なんて)
思ってはいけない気持ちだった。
だから、心の奥にそっとしまったまま、
17年が過ぎた。
美咲が亡くなって、
もう10年以上経つ。
今はフリーだ。
でも──
(47の俺が、恋愛って……どうなんだろうな)
苦笑が漏れる。
恋愛するなら、
もし誰かと心を通わせるなら…
どこかで思ってしまう人はいる。
でもそれは、
現実的な願いじゃない。
(俺をどう思ってたかなんて、わからないし)
再会できる気もしない。
そもそも、
自分が恋愛をしていい年齢なのかすら分からない。
(……ただ、元気にしてたらいい)
それだけでいい。
それ以上を望むつもりはない。
冬の夜の空気は冷たいのに、
胸の奥だけがじんわりと温かい。
大和はゆっくりと歩き出す。
気づかない。
ほんの数分前、
店の前の暗がりに、
白い息を震わせながら立ち尽くしていた人の存在に。
気づかないまま、
大和は冬の夜に消えていった。




