冬の夜、灯の前で
LIVEが終わった瞬間、
画面が暗くなる。
(……終わっちゃった)
でも、
さっきまで確かに聞こえていた。
大和の声。
東京店のざわめき。
笑い声。
あの温度。
(……東京にいるんだよね)
(今、この街に)
気付けば、
葵は玄関に向かっていた。
サンダルをつっかけて、
勢いのまま外へ出る。
冬の夜の冷気が、
容赦なく足元を刺した。
「……っ、さむ……」
一瞬だけ現実に戻る。
でも、戻れない。
胸の奥の熱が、寒さを上回っていた。
葵はサンダルのまま歩き出す。
早足で。
ほとんど走るみたいに。
そして──
灯の前に着いた。
店の灯はまだついていた。
ガラス越しに、
スタッフの笑い声が漏れてくる。
その中に、
大和の声が混じる。
(……いる)
(まだ、いるんだ)
でも、
扉には“営業終了”の札。
ガラス越しの店内は明るいのに、
葵の立つ外は冬の冷気で白い息が揺れる。
手を伸ばせば届きそうなのに、
ガラスが冷たくて、
その向こうの温度だけが遠い。
葵は、
帰ることも、
入ることもできず、
ただ立ち尽くした。
どれくらいそうしていたのか分からない。
やがて──
店内の灯りがふっと落ちた。
(……終わった)
ハッとして、
葵は反射的に店の前から離れる。
見つかるのが怖い。
でも、離れたくない。
冬の夜の空気が、
急に冷たく感じた。
そのときだった。
ガラスの向こうで、
扉が開く音。
スタッフの笑い声。
そして──
その後ろに、大和の影。
光に照らされた横顔が、
ほんの一瞬だけ見えた。
葵の足が止まる。
(……いた)
(本当に、いたんだ)
胸がぎゅっと締めつけられて、
視界がにじむ。
涙が、
勝手にこぼれた。
大和は気づかずに歩き去る。
葵はただ、
冬の夜に立ち尽くす。
白い息だけが、
静かに揺れていた。




