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20年間忘れられなかった人と、もう一度恋をする  作者: 柚原 澄香


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冬の夜、灯の前で

LIVEが終わった瞬間、

画面が暗くなる。


(……終わっちゃった)


でも、

さっきまで確かに聞こえていた。


大和の声。

東京店のざわめき。

笑い声。

あの温度。


(……東京にいるんだよね)

(今、この街に)


気付けば、

葵は玄関に向かっていた。


サンダルをつっかけて、

勢いのまま外へ出る。


冬の夜の冷気が、

容赦なく足元を刺した。


「……っ、さむ……」


一瞬だけ現実に戻る。

でも、戻れない。

胸の奥の熱が、寒さを上回っていた。


葵はサンダルのまま歩き出す。

早足で。

ほとんど走るみたいに。


そして──

(あかり)の前に着いた。


店の灯はまだついていた。

ガラス越しに、

スタッフの笑い声が漏れてくる。


その中に、

大和の声が混じる。


(……いる)

(まだ、いるんだ)


でも、

扉には“営業終了”の札。


ガラス越しの店内は明るいのに、

葵の立つ外は冬の冷気で白い息が揺れる。


手を伸ばせば届きそうなのに、

ガラスが冷たくて、

その向こうの温度だけが遠い。


葵は、

帰ることも、

入ることもできず、

ただ立ち尽くした。


どれくらいそうしていたのか分からない。


やがて──

店内の灯りがふっと落ちた。


(……終わった)


ハッとして、

葵は反射的に店の前から離れる。

見つかるのが怖い。

でも、離れたくない。


冬の夜の空気が、

急に冷たく感じた。


そのときだった。


ガラスの向こうで、

扉が開く音。


スタッフの笑い声。

そして──

その後ろに、大和の影。


光に照らされた横顔が、

ほんの一瞬だけ見えた。


葵の足が止まる。


(……いた)

(本当に、いたんだ)


胸がぎゅっと締めつけられて、

視界がにじむ。


涙が、

勝手にこぼれた。


大和は気づかずに歩き去る。

葵はただ、

冬の夜に立ち尽くす。


白い息だけが、

静かに揺れていた。

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