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20年間忘れられなかった人と、もう一度恋をする  作者: 柚原 澄香


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届かない距離──生の声に触れた夜

前回の夜から、数日が過ぎた。

「私のこと、覚えてますか」

あの未送信コメントの痛みは、まだ胸の奥に残っている。


現実のざらつきに疲れた夜、

葵はまた大和のリールを開こうとした。


コメント欄の白い枠に指が触れる。


気付けば、

文字が浮かんでいた。


「私はずっと覚えてます」


(……だめだって)


慌てて消す。

胸の奥がじんと熱くなる。


ふう、と息を吐いたその瞬間だった。


画面の上部に、赤い文字が浮かんだ。


LIVE


(……え? 今?)


心臓がひとつ跳ねる。

指が吸い寄せられるように、その赤をタップした。


画面が切り替わり、

明るい店内の空気が一気に流れ込む。


そして──

映った背景に、葵は息を呑んだ。


見慣れた、

東京店のカウンター。


(……東京に、いるの?

今、この街に?)


胸が一気に熱くなる。


「コラボ終了なんで、せっかくなので大和さんに質問しまーす!」

東京店スタッフの声が弾む。


「おいおい、LIVEでそれやる?」

大和が少し照れたように笑う。


「いいじゃないですか〜!今日で一旦終わりですし、無礼講で!」


「はいはい。無礼講な。なんでも聞けよ」


スタッフが嬉しそうに身を乗り出す。


「じゃあまず……今でも元スタッフさんと連絡とってる人います?

仲良かった子とか!」


大和は少し考えてから、

ゆっくり首を振った。


「ほとんどないよ。

みんなそれぞれの道に行ったしね」


そう言ってから、

ふっと表情がやわらぐ。


「でもね、結婚式に呼んでくれた元スタッフさんがいてさ。

なんかもう……僕、すごい泣いちゃって。

ああ、みんな大人になったんだなって」


「えー!泣いたんですか!」

スタッフが大げさに驚く。

「いいなぁ……自分も大和さんに結婚式来てほしいです!

相手いませんが……募集中でーす!」


「ふざけすぎだなー。今日は無礼講だから許すけど」


画面の向こうは明るくて、

笑い声が弾んでいて、

空気があたたかい。


葵は、

その輪の中に自分がいないことを知っている。


(……私も)

(連絡してみたいって、思っちゃうじゃん)


でも、

実際にはしない。

できない。

怖い。

現実が動いてしまうから。


コメント欄の白い枠に、

そっと指を置く。


「店長……

連絡しても、いいですか?」


書いて、

胸がぎゅっと痛くなって、

送らずに消す。


未送信の言葉だけが、

またひとつ増えた。

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