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未送信の問い──届かない本音
大和のリールを開いた瞬間、
胸の奥がじんわりと温かくなる。
現実のざらつきが、少しだけ遠のく。
心だけは19歳の頃に戻ってしまう。
あの夜の歩幅も、
あの声の温度も、
時間を巻き戻すように蘇る。
気付けば、
大和の過去の投稿を遡っていた。
笑っている顔も、
黙って作業している横顔も、
全部、記憶のどこかと重なって見える。
コメント欄の白い枠が目に入ると、
指が勝手に動いた。
「今日の声、なんか優しいですね」
書いて、消す。
「昔と変わらないですね」
また書いて、また消す。
送るつもりなんてない。
送れない。
でも、書かずにはいられない。
未送信だからこそ、
いちばん本音が書ける。
そして、
指がふと止まった。
「私のこと、覚えてますか?」
書いた瞬間、
胸がぎゅっと痛くなる。
自分はこんなにも長く、
大和を心の中に残しているのに。
大和にとっては、
ただのバイトの子だったかもしれない。
送信ボタンの赤が、
静かに光っていた。
(……送らない)
そう決めて、
葵はそっと画面を閉じた。
未送信の問いだけが、
胸の奥でいつまでも消えなかった。




