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20年間忘れられなかった人と、もう一度恋をする  作者: 柚原 澄香


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赤いハート──届かない言葉を置く夜

家に着くと、俊介はいなかった。

最近は帰りが遅くて、顔を合わせることもほとんどない。

玄関に並んだ靴だけが、今日も会えなかったことを静かに示していた。

葵はそのまま自室に直行した。

胸の奥のざわめきを、誰にも見られたくなかった。


ドアを閉めると同時に、スマホを開いていた。

気付けばまた、あのリールを再生している。

大和がスタッフの肩を軽く叩いて笑う。

「迷惑なわけないだろ。むしろ助けられてばっかりだよ」

その声が、まだ耳の奥で揺れていた。


右下の小さなハートに、指が触れる。

ぽん、と赤く灯る。


(……消さない)


胸がきゅっと締め付けられた。

過去の“事故いいね”とは違う。

今回は、自分で押した。

意図して。

気持ちが動いたから。


画面をスクロールすると、コメント欄が目に入る。

「優しい」「行ってみたい」「店長かっこいい」

そんな言葉が並ぶ下に、

ぽつんと白い枠があった。


(……書いちゃだめだよ)


そう思ったのに、指が勝手に動く。

白い枠に文字が浮かぶ。


「店長、あのときはありがとうございました」


胸の奥がじんわり熱くなる。

“あのとき”──

17年前の夜。

歩幅を合わせてくれた帰り道。

「迷惑なわけないだろ」と言ってくれた声。

今日のリールで蘇った記憶が、

そのまま言葉になってしまった。


送信ボタンの上で、指が止まる。

押せない。

押しちゃいけない。


そっと画面を閉じる。

赤いハートだけが残り、

コメントは未送信のまま静かに消えた。


本当は、

もっと違う言葉を打ちたかった。

胸の奥で、小さな声が灯る。


でもそれは、

まだ届かせてはいけない想い…。

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