120%の帰り道──あふれて止まらない想い
会社を出た瞬間、胸の奥がふわっと浮いた。
夕方の風が頬を撫でる。
いつもと同じ風なのに、今日はやけに優しく感じる。
鞄の中のスマホは100%のまま静かにしているのに、
心だけが120%で脈打っていた。
(……まだ、声が残ってる)
大和がカメラマンに寄り添って、
モニターを覗き込みながら言ったあの声。
「焦らなくていいよ。ゆっくりで大丈夫」
その柔らかさが、耳の奥に残って離れない。
歩くたびに、胸の奥で小さく震える。
信号待ちの間、ふと手が頬に触れる。
熱い。
鏡に映った“恋してる顔”が、まだ消えていない。
(……私、こんな顔して歩いてるんだ)
恥ずかしいのに、嬉しい。
苦しいのに、温かい。
矛盾した感情が胸の中で渦を巻く。
俊介の未読通知は、まだ赤いまま。
見なきゃいけないのに、
罪悪感より先に、大和の余韻が胸を満たしていく。
街灯がいつもより柔らかく見える。
夕暮れの色が少しだけ明るい。
世界が変わったわけじゃないのに、
自分の中だけが静かに変わってしまった。
(……もう、戻れない)
鞄の中のスマホは満タン。
でも、心はもう120%で、
あふれて止まらない。
葵は、恋を認めてしまった人の歩き方をしていた。




