感情の蓋が開くとき
葵はキッチンで一人、スマホを握りしめていた。
おすすめに流れてきた投稿を、思わず息を呑んで見つめる。
灯のカウンター。
二色のだし巻き。
見覚えのある皿。
そして――写真。
(……え?)
3人で写っている。
知らない男性。
大和。
そして――俊介。
(俊介……?)
胸が一気にざわつく。
2人は笑顔なのに、俊介だけ沈んだような顔をしている。
(なんで俊介が灯に?
いつ?どうして言わないの?
この人……誰?
この人が投稿したの?
俊介と店長……会ってるの?
え……どうして?)
理解が追いつかない。
頭の中で疑問が次々に弾ける。
心臓の鼓動だけがやけに大きく響く。
そして、コメント欄に見慣れた名前があった。
――大和。
その瞬間、胸の奥が強く揺れた。
17年前の記憶じゃない。
もっと深いところに沈めていた“感情”が、勝手に浮かび上がる。
(……どうしよう)
驚きと混乱と、説明できない痛みが同時に押し寄せる。
17年も経っているのに。
もう終わったと思っていたのに。
(私……閉じたふりをしていただけだったんだ)
その言葉が胸に落ちた瞬間、
葵は、自分の心がまだ“生きている”ことを知ってしまう。
リビングの方では、俊介が静かに息を潜めている。
二人の間に、17年分の断層が、音もなく広がっていった。




