395/499
葵の世界にも
夜。リビングに戻ると、葵がスマホを見ていた。
画面には、知らないアカウントの投稿が表示されている。
灯のカウンター。二色のだし巻き。見覚えのある皿。
(……なんで、灯?)
胸の奥が、ほんの少しだけざわつく。
理由は分からない。
ただ、視線が離れなかった。
投稿をスクロールする葵の指が、一瞬だけ止まる。
その揺れを、俊介は見逃さなかった。
葵はすぐに画面を閉じ、何事もなかったように姿勢を戻す。
けれど、その“早さ”が、俊介の胸に刺さる。
(……見たんだ)
葵の横顔は静かで、いつも通りに見える。
でも、目の奥にだけ、微かな波紋が残っていた。
それは“記憶”では説明できない揺れだった。
俊介は言葉を飲み込む。
聞けば壊れる。
触れれば戻れない。
そんな気がして、ただ息を潜めた。
葵の胸のざわつきは、まだ自分でも理由が分からない。
けれど、その小さな揺れが、
このあと押し寄せる“本当の感情”の前触れだった。




