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だし巻きエピソード
昼休み。
山下はまだ興奮していた。
「大和さん、昔リールでだし巻きの話しててさ!」
「奥さんに“また?”って笑われながら毎日練習してたって!」
俊介の手が止まる。
(……だし巻き?奥さん?毎日?)
山下は気づかず、さらに続ける。
「それがまた可愛いんですよ!奥さんとのやり取りも!」
胸の奥に、冷たいものが落ちた。
だし巻き。
奥さん。
毎日。
葵の二色のだし巻きが、ふっと頭に浮かぶ。
なんで今、その記憶が出てくるんだ。
なんで、こんなに胸がざわつくんだ。
山下は笑っているのに、
俊介の世界だけが静かに沈んでいく。




