前へ目次 次へ 377/499 扉の前 順番が近づく。 店員が名前を呼ぶ。 「山下様、どうぞ」 山下が振り返る。 「行こう、俊介!」 俊介は一瞬だけ足を止めた。 何故か葵の顔が浮かんだから。 決め事のハグが形だけになってしまったあの瞬間。 葵の目に宿っていた、言葉にできない不安。 (……俺は、何をしに来たんだろう) でも、もう引き返せない。 ここまで来てしまった。 「……行くよ」 扉に手をかける。 温かい光が、指先に触れた。 俊介が“灯(あかり)の夜”に足を踏み入れる瞬間だった。