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歩き出す足
会社を出て、夜風の中を歩き始める。
居酒屋「灯」は会社と家の間にある。
山下は楽しそうに話している。
「いやー、ほんと奇跡だよ。灯の予約なんてさ」
「大和さんって人、すごい人気らしいぞ」
俊介は相槌を打ちながら、胸のざわつきを抑えられなかった。
歩くたびに、葵の横顔が浮かぶ。
二色のだし巻きを作ってくれた朝。
あれがバズっている理由も、葵が作った理由も分からない。
(なんで……あれを作ったんだろう)
分からないまま、灯が近づいてくる。
足取りは重いのに、時間だけが前に進んでいく。




