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20年間忘れられなかった人と、もう一度恋をする  作者: 柚原 澄香


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触れない朝

朝、キッチンに立つと、

俊介がすでにコーヒーを淹れていた。


以前なら、

「おはよう」のあとに、

ぎこちなくても“決め事のハグ”があった。

触れた瞬間に分かる温度のなさが、

ふたりの距離を逆に浮き彫りにしていた。


でも今朝は——

俊介は葵のほうを見なかった。


「……おはよう」

葵が声をかけると、俊介は軽く頷くだけ。

腕を広げる気配もない。


(……今日は、しないんだ)


葵は自分から近づく勇気が出なかった。

形だけのハグを求めることが、

余計に惨めに思えてしまう。


「今日、帰り遅くなるかも」

俊介の声は淡々としていて、

まるで“報告”のようだった。


「……うん。気をつけて」


扉が閉まったあと、

葵は胸の奥に残るざわつきを押さえられなかった。


“決め事のハグ”は、

まだ完全には消えていない。

でも、もう触れられない距離にある。


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