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別々の朝
寝室を分けてから、数日が経った。
朝の気配が、やけに薄い。
葵は自室から出てきて、いつも通りの声で「おはよう」と言った。
その“普通さ”が、俊介には逆に胸に刺さる。
以前は、同じ布団の温もりを引きずったまま迎える朝だった。
寝癖を笑い合ったり、コーヒーの香りに救われたり。
そんな小さな日常が、気づけば全部なくなっていた。
「今日、帰り遅くなるかも」
俊介が言うと、葵は短く「うん」とだけ返す。
それ以上の会話は生まれない。
葵は俊介の背中を見送りながら、
胸の奥に説明できないざわつきを抱えた。
何が変わったのか、どこから変わったのか。
答えは分からないのに、
“戻らない何か”だけがはっきりしている。
距離は、静かに日常になりつつあった。




