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気持ちばかりすれ違う
朝、食卓に座った瞬間だった。
湯気の立つ味噌汁を置きながら、葵がふっと言う。
「最近、眠れてないでしょ?」
本当にただの心配。
責める気なんて、少しもない声。
それなのに、俊介の胸には鋭く刺さった。
眠れない理由は、葵なのに。
葵の背中が遠くて、触れられなくて、
夜になると胸が締めつけられるからなのに。
「まあ、ちょっとね。仕事が立て込んでて」
笑ってごまかす。
その笑顔が、自分でも嘘だと分かっている。
葵は気づかない。
気づかない優しさほど、痛いものはない。
「無理しないでね」
その一言が、胸の奥に静かに沈んでいく。
優しさが、こんなにも苦しい日が来るなんて思わなかった。




