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むなしさと隣り合わせ
夜。
また帰宅を遅らせてしまった。
玄関を開けると、家は静まり返っている。
寝室の扉の向こうから、葵の寝息が聞こえる。
そっと布団に入る。
触れたい。
抱きしめたい。
好きだから。
でも触れたら、また冷たさに気づいてしまう。
葵の心がここにいないことを、思い知らされる。
朝は誤魔化せる。
日中は忘れられる。
でも夜だけは、どうしても誤魔化せない。
隣にいるのに、いちばん遠い。
その距離を抱えたまま眠るのが、もう限界に近い。
「好きなのに……なんでこんなに苦しいんだろう」
暗闇の中で、俺の声だけが静かに沈んでいった。




