354/493
優しさが刺さる
朝食の途中、葵がふとつぶやいた。
「最近、帰るの遅いね」
本当にただの会話。
責めてるわけじゃない。
むしろ心配してくれている声だった。
なのに、俺の胸には鋭く刺さる。
遅くしてるのは俺だ。
夜のハグが怖いから。
触れた瞬間に、葵の心がここにないことを思い知らされるから。
「仕事がちょっと立て込んでてさ」
笑ってごまかす。
でも、その笑顔が自分でも嘘だと分かってる。
葵は気づかない。
気づかない優しさが、いちばん痛い。
優しい言葉ほど、胸に深く沈んでいく。
俺はまた、夜が来るのを恐れ始めていた。




