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朝はごまかせる
朝のハグは、まだ続いている。
触れた瞬間、葵の体温が薄いことに気づく。
でも、朝は忙しい。
朝食の匂い、ニュースの音、出勤時間の焦り。
いろんな雑音が、俺の胸のざわつきを押し流してくれる。
「行ってきます」
「うん、気をつけてね」
そのやり取りだけで、なんとか自分を保てる。
日中は仕事に追われて、葵の冷たさを忘れられる。
忘れたふりができる。
でも、胸の奥にはずっと残ってる。
昨夜のむなしさ。
触れられなかった背中。
触れたら壊れそうな距離。
朝は誤魔化せる。
だけど、夜は誤魔化せない。
その事実だけが、じわじわと俺を追い詰めていく。




