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帰れなくなった夜
仕事が終わっても、足が家に向かない。
コンビニの駐車場で缶コーヒーを握ったまま、ただ時間だけが溶けていく。
本当は早く帰りたい。葵の顔を見たい。声を聞きたい。
俺は葵が好きだ。
それだけは、ずっと変わらない。
でも、帰れば夜のハグがある。
触れた瞬間に、また“あの冷たさ”に気づいてしまう。
葵の体温が、心まで届かないあの感覚。
好きだからこそ、あれが怖い。
「……なんでだよ。俺が言い出したのに」
ハンドルに額を押しつける。
帰りたいのに、帰れない。
好きなのに、触れるのが怖い。
そんな矛盾を抱えたまま、俺はエンジンをかけずに夜の中に取り残されていた。




