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夜のハグと背中の震え
寝る前の“夜のハグ”。
これも決め事。
決め事にしないと、触れられなかったから。
抱きしめると、葵の身体はこわばっていた。
温度がない。
呼吸が浅い。
——新婚気分に戻るどころか、遠くなってる。
ハグのあと、葵はスマホを持って布団に入る。
俊介は背中を向けて寝たふりをする。
スマホの光がふっと明るくなる。
葵の肩が、ほんの少し揺れた。
息が短く弾む。
「……フフッ」
その小さな笑い声が、
俊介の背中に突き刺さる。
自分の前では笑わないのに。
ハグには温度がないのに。
何を見て笑ってるんだろう。
誰を見て。
考えたくないのに、
大和のリールの話が勝手に浮かぶ。
俊介は目を閉じたまま、
静かに息を吐いた。
見ないことで守っているつもりなのに、
その選択が、二人の距離をまた少し広げていく。




